地域包括ケアシステムをめぐり地域医療部長談話を発表/「食べること」を中心とした地域包括ケアシステムを望む

☆ 高齢社会の中で歯科がはたすべき役割 ☆

昨年、当協会が行った「要介護高齢者の口腔内状況調査」では、「う蝕がある」が7割を超え、「歯周病がある」が9割弱、「口腔状況から判断すると義歯の使用が必要」が3割を超えるなど要介護高齢者の口腔状況が、悪いまま放置されていることが浮き彫りになった。

また歯科診療所からは「ケアマネジャーやヘルパーは歯科を理解していない」「介護職は要介護高齢者の口腔を見ていない」などの声がある一方で、介護職からは「もっと歯科が関わってほしい」「歯科は入れ歯を作るが、食べられるようにしてくれない」などの声がある。

これらは、地域の保健・福祉・介護の中に歯科が位置付けられていない状況を如実に示している。歯科が関わることで歯科疾患の早期発見、早期治療だけでなく、誤嚥性肺炎など全身に関わる疾患の予防や「食べること」を改善することもできる。

このような現状、背景を勘案し、国が進めている地域包括ケアシステムの問題点と歯科の関わりについて、当協会の馬場安彦地域医療部長が本日6月10日付で談話を作成したので、以下に紹介する。

【地域医療部長談話】

「食べること」を中心とした地域包括ケアシステムを望む / 食べることは生きること

人は食べなくては生きていけない。食べるためには、摂食・咀嚼・嚥下をする必要がある。しっかり食べることは、障害や病気の方、高齢者だけでなく全ての国民にとって生きていくうえで重要なことである。この重要なことに、一番関わるのが歯科である。現在は、医療としての関わりが中心となっているが、保健・福祉・介護の面からも、歯科が関わることで、元気な高齢者を増やすことになり、患者・国民からの信頼を得られることになる。

◆医療費削減ありきの地域包括ケアシステムに反対

 国は「高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制」として地域包括ケアシステムを位置付けている。理念的には賛成できるが、実際には「自助・互助」を中心として、国の負担を減らし、代わりに患者・国民の負担を増やそうとしている。医療費削減を目的とするような地域包括ケアシステムには医療人として反対する。

◆歯科から創る「食べること」を中心とした地域でのネットワーク

「食べること」を中心とした地域でのネットワークは、歯科医師が中心となって作っていくべきである。地域で包括的なネットワークを構築していくためには、医療だけでなく、保健・福祉・介護の分野にも関わっていく必要がある。しかしながら、現状では保健・福祉・介護の分野では口腔状況の把握はほとんどされておらず、食べる能力のある患者や高齢者が食べられない状況に置かれていることも見受けられる。

協会では、国会内学習会、東京都への予算要望などを通じて、「介護認定の口腔状況チェックを強化し、必要に応じて歯科主治医への紹介を義務付ける」など、歯科が様々な分野に関わっていけるよう要望をしている。しかしながら、「歯科がもっと関わってほしい」との患者・国民からの声がなければ、現状を変えていくことは難しい。変えるためには、歯科医師一人ひとりが、国民に「歯科ができること」をもっと伝えていく必要がある。

まずは診療所がある地域の保健・福祉・介護の職種、医療関係職種、そして、来院してくれる患者に対して、歯科医師・歯科医院として何ができるのか自ら伝えていくことから始め、どの歯科医院でも口腔内の治療を行うだけでなく、「食べること」を診られるようにしていかないといけない。患者・国民に喜ばれる「食べること」を中心とした地域でのネットワークが地域包括ケアシステムの中に位置付けられるよう歯科から働きかけていこう。

 

2016年6月10日

東京歯科保険医協会

地域医療部長  馬場安彦

地域医療部長談話イメージ写真