歯科雑感

「医療・介護難民」を増やす医療・介護一括法案

「医療・介護難民」を増やす医療・介護一括法案

 1.   法案は社会保障一体改革の第3歩目

◆政府の狙い⇒公的責任と負担を軽減、当事者への負担を増加

消費税率が8%に引き上げられた4月1日に、医療・介護一括法案が衆議院で審議入りした。同法案は2012年夏に野田政権下で消費税法改定案とともに成立した社会保障制度改革推進法から端を発しており、とても象徴的といえる。推進法は「助け合いの仕組み」「社会保障の機能の充実と給付の重点化」「年金・医療・介護は社会保険制度を基本」「主要な財源は消費税の収入を充てる」ことを基本とし、その後、国民会議報告書、「プログラム法案」成立へと推移した。

この3月に宇都宮啓・厚労省保険局医療課長は「今回は社会保障・税一体改革の第2歩目で特に地域包括ケアシステムの構築を目指した」(m3.comインタビュー)と、診療報酬改定は一体改革と一連のものであることを強調した。

同法案は医療提供施設の開設・管理者には「役割を果たすよう努める」と、国民には医療施設の機能に応じ選択を適切に行い、医療を適切に受けるようにと、自己責任を強いるなど一体改革そのものだ。その一方で、政府・財界により混合診療の解禁、医療の営利産業化が狙われている。

また同法案は、異質な19本の法案を一本化することで審議時間の短縮を狙う。国民の医療の充実の観点に立ち、十分に審議を行うことが求められる。

2.   法案の内容について

同法案は「効率的かつ質の高い医療提供体制」と「地域包括ケアシステム」により地域における医療と介護を確保することを趣旨としている。病院や介護施設にいる療養者を在宅に移行させ、地域の医療・介護担当者に見させ、療養者に一層の負担を強いるものだ。財源は消費税を中心にする。社会保障を充実させるなら、さらなる消費増税を狙う。「行き場のない高齢者が難民化する」との危惧も出ており、看過できないものである。

①医療関連/地域の病床を削減・再編

 ◆政府の狙い⇒25年まで43万床削減し患者追い出しを促進

法案では、都道府県は二次医療圏ごとに必要病床数を盛り込んだ「地域医療構想」を策定し医療計画に盛り込む。病床を「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の機能に再編促進のために医療機関に報告させる(病床機能報告制度)。圏域ごとに医療機関と保険者等が参加する「協議の場」を設け、「構想」に従うように医療機関に機能の転換が求められる。4月の改定では、各病棟から自宅等への復帰率を算定要件・加算として導入し、退院促進を促すなど、患者の在宅への移動を促す。

高齢者人口が増える2025年には202万床が必要と推計されているが、政府はそれまでに43万床を削減する計画。「受け皿」整備の見通しもなく、病床削減に突き進もうとしている。

②提供体制再編のための基金を設置

 ◆政府の狙い⇒どれだけ医療現場に活用されるか

消費増税分を活用した新たな基金を都道府県に設置する。病床機能の分化・連携や在宅医療や介護サービスの充実、医療充実者の確保・養成のための事業を行う。事業規模は既存の事業は275億円を含む904億円。診療報酬とともに医療・介護供給体制の再編を行う。将来の診療報酬の改定も新基金を理由に引き上げが拒まれる可能性もある。

③看護師、歯科衛生士、診療放射線技師の業務拡大

 ◆政府の狙い⇒安上がり医療の拡大の可能性

同法案では看護師、診療放射線技師など、医師・歯科医師でない資格者の業務範囲の拡大が行われる。特定行為研修を受けた看護師が手順書により特定行為を行うことができるようにさせる。放射線技師にCT、MR検査等で造影剤自動注入器を用いた造影剤投与を行わせる。

歯科衛生士法関連では、業務に当たる努力義務に「歯科医師そのたの歯科医療関係者との緊密な連携を図」ることが加えられる。規制改革会議の論議によると、今後医療機関以外に医療従事者を待機させる「出張所」の検討が行われそうだ。将来は「バーチャル保険医療機関」の可能性も。法改定に合わせ注視が必要だ。

④第三者機関による医療事故調査

 ◆政府の狙い⇒第三者機関への届出、院内調査を医療機関に義務付け

患者が死亡した医療事故の発生時に第三者機関への届出とともに、原因究明のための院内調査を医療機関に義務付ける。対象を提供した医療に起因し死亡・死産を予測しなかったものに限定した。第三者機関は、共通要因を洗い出すなどして再発防止のための評価・分析を行う。遺族や医療機関から依頼があれば、第三者機関による調査も可能。厚労省は遺族へ院内調査報告書を開示するとしており、それらの訴訟利用を否定していない。医師会や大学などが院内調査を支援する仕組みも構築する見通し。医師法との関係も今後検討し、施行後2年以内に制度を見直す。

保団連は、昨年12月に医療事故調査は刑事・民事訴訟とは切り離し、医療安全と再発防止の目的に限定させるべきなどと見解をまとめている。

⑤外国人医師・歯科医師による国内診療の緩和

 ◆政府の狙い⇒TPP参加後には他国の資格者の門戸開放にもつながる

日本の医師免許を持たない外国人医師による日本国内での診療行為は、医療法により原則禁じられている。例外として「臨床修練制度」の下での診療は可能だが、在留期間は2年まで。この制度により日本の医師免許を得ることはできず、日本で診療業務に従事する外国人医師はごく少数となっている。今回は、年限を4年に延長し、手続き・要件を緩和する。教授・臨床研究を目的として外国医師・歯科医師が診療すること、看護師が業務することを認める。

日本がTPPに参加し、免許・資格の相互承認性が合意されれば政府は他国の資格者についても門戸開放を促される。

(2)介護関連

①介護予防の通所・訪問介護を保険給付から市町村の事業に移管

 ◆政府の狙い⇒サービス水準の低下と利用料の引き上げが懸念

介護保険制度に地域福祉の仕組みを混合させる。全国一律の介護予防の訪問介護(ホームヘルプ)・通所介護(デイサービス)を給付対象から外し、市町村が実施する日常生活支援総合事業に移行させる。市町村の裁量でサービス内容や価格、利用者負担割合が決められ、ボランティアや民間企業への委託も可能となる。サービスの低下は必至となろう。

また政府推計では25年までに介護職員を百万人増やす必要があるとし、訪問看護師はわずか3万人と全体の2%に過ぎない、マンパワー不足も存在する。

こうしたことから全国の保険者3割が実施は「不可能」と回答(中央社保協調べ)している。自治体の財政難や人員確保の困難さから、サービス水準の低下と利用料の引き上げが懸念されている。

②特別養護老人ホーム入所は原則、要介護3以上に限定

 ◆政府の狙い⇒特養入所要件の厳格化

特別養護老人ホーム入所は原則、要介護3以上に限定させる。要介護1、2の方は「特養以外での生活が著しく困難な場合」にのみ認める。

3月末にはその入所待機者が全国で約52万2000人いると公表された。5年前の前回公表から10万人増加しており、高齢化が進み需要が膨らむ一方で施設整備が追いつかない現状が明確になった。そのうち要介護1、2の方が18万人を占め、入所要件が要介護3以上になれば大半が入所できなくなる。

③利用料負担を2割に(所得160万円〔年金収入280万円〕以上)

 ◆政府の狙い⇒制度創設初/2割負担が導入

制度創設から初めて、一定以上の所得がある利用者に2割の利用者負担が導入される。対象は全体の20%の、所得160万円以上の方。

規制改革会議が「選択療養」を提案/「混合診療」解禁の突破口の可能性大

規制改革会議が「選択療養」を提案/「混合診療」解禁の突破口の可能性大

政府の規制改革会議(議長:岡素之住友商事相談役)が、3月27日、「診療の選択肢を拡大」「極めて短期間に受けられる仕組み」を目指し、混合診療解禁を目的とした「選択療養制度(仮称)」の創設へ向けて論点を示した。これらに対し、日医、保団連、日歯、保険3団体、患者団体から反対の意見が相次いでいる。日医は「現行の制度の機動性を高めることで対応すべきで、『選択療養』の導入は到底容認できない」と、日歯も「明確に反対の意を表明するものである」と見解を出している。

現在、健康保険制度ではいわゆる「混合診療」を原則認められていない。保険診療と自費診療の併用を認める「保険外併用療養費制度」と歯科の補綴治療で認められているだけだ。同制度には、将来の保険導入を想定する「評価療養」とそれを前提としない「選定療養」の2つの制度がある。それにもう一つの分野を設けようとするのが、今回の「選択療養(仮称)」だ。

同会議が目指す「選択療養」は、「必要な情報が医師から患者へ提供され、書面で確認」「医師のモラルハザードの防止」など一定の手続き・ルールに基づき、「きわめて短期間に保険外併用療養費の支給が受けられる」仕組みとし、保険者への届出も想定している。

同会議は4月16日に「合理的な根拠が疑わしい医療等の除外」なども示し、当初の範囲を限定しつつあるが、安倍首相も関係大臣に協力を指示するなど、最終的な提案に向けて一気に進む可能性がある。

現在の先進医療は、安全性、有効性などの審査が行われており、近年指摘されているドラッグラグの短縮も実績を上げている。「病気と闘う患者」の選択肢の拡大を突破口に「混合診療」の拡大を狙っている。

「差額徴収」の二の舞になる懸念も

歯科診療には1955年から「差額徴収制度」があり、60年代後半から70年代前半にかけ、保険診療に加えて無制限に差額徴収を行ったことで、当時の歯科医師は社会的なバッシングを受けた経験を持つ。その後、「保険給付外の材料等」を目安に保険診療と自費診療との峻別や、特定療養費制度(現在の保険外併用療養費制度)に「金属床総義歯」「小児の齲蝕管理」の導入が行われ、一定の制限のもとで「混合診療」が認められている。

こうした制限が取り払われることによって、差額徴収時代のような無制限の「混合診療」が横行し、不幸な歴史の二の舞になる懸念がある。将来的には、民間保険の拡大による医療費の増大、保険診療の抑制につながりかねず、規制改革会議による「選択療養」の提案は到底、容認できるものではない。

書籍紹介『私もパーキンソン病患者です/難病になって初めて見えてきた日本の社会福祉』

『私もパーキンソン病患者です/難病になって初めて見えてきた日本の社会福祉』

 150pix「私もパーキンソン病患者です」表紙2009年、突然、パーキンソン病・ヤール重度Ⅳと診断された著者。その後、5年間に及ぶ介護生活の中で、これまで見えてこなかった日本の医療制度の矛盾の多さに気づいていく。

著者は元日刊紙記者で、難病患者から見た世界の輪郭を描き残すことが自らの使命と自覚。本書を著すことを決意し、1日にわずか1、2時間しか動かない指にペンを縛りつけ、ほぼ1年を費やして原稿を完成させた。

著者の原稿執筆への努力と記憶力の精緻さはもとより、達筆な原稿用紙の文字と文意を拾い取った編集者の仕事にも思わず脱帽したくなるところだ。

2012年に公布された社会保障制度改革推進法は「自助と公助」を前面に押し出し、憲法第25条に基づく「公助」が薄くされつつある。

ぜひとも本書を手に取り、日本の社会福祉は、国の責任と負担を放棄した欠陥福祉であることを訴える筆者の悲痛な叫びに耳を傾けていただければ幸いである。

なお、下記写真は、著者が旧知の神奈川県保険医協会の理事あてに、本書紹介のために送った書簡の一部。

◆2013年12月/三五館発行

◆柳博雄著

◆四六判並製336ページ

◆本体価格1600円

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地域包括ケアシステムと歯科②/「地域包括ケアの落とし穴」

地域包括ケアシステムと歯科②/「地域包括ケアの落とし穴」

― 超高齢社会に向けての課題と問題点

前回は、地域包括ケアシステム(以下、「地域包括ケア」)の概要とその背景を解説した。国が掲げるように、要介護状態になっても、住み慣れた地域で可能な限り自立した日常生活を営めるようなシステムが構築されることは、多くの国民が望むことである。しかし、国が考える社会保障の削減を前提とした地域包括ケアには、いくつもの課題と問題点が見え隠れしている。今回は、その主な課題と問題点を解説する

◆ 「自助」「互助」が基本とされている

地域包括ケアの考え方では、自らが働いて自らの生活を支え、自らの健康は自ら維持するという「自助」と、家族や親族、地域の人々などの助け合いである「互助」を基本とし、それでも対応できない場合のみ、介護保険や医療保険などの「共助」や生活保護などの公的扶助や社会福祉などの「公助」が補完するとされている。
しかし、低所得高齢者が急増する中で、都市部では核家族化により家族・親族による援助や地域でのつながりが希薄となり、地方では過疎化が進む中で、「自助」や「互助」を基本としたシステムが成り立つとは思えない。セーフティーネットとしての「公助」を基本にしつつ、それぞれの状況に応じて、「自助」「互助」「共助」が組み合わされるようなシステムが必要ではないか。

 

◆介護保険・医療保険の費用削減と負担増が前提

団塊の世代のすべてが後期高齢者(75歳以上)となる2025年には、後期高齢者が約2200万人(全人口の18%)に増え、「後期高齢者2000万人社会」が到来する。それに伴い2025年には、介護保険の費用が8兆円⇒21兆円、医療保険の費用が38兆円⇒60兆円と試算されている。社会保障の負担のために消費税を増税するとしているが、その一方で、すでに介護保険からの要支援外しや、窓口負担2割への負担増、医療保険の70~74歳の窓口負担の2割への負担増などの改悪が行われようとしている。

 

◆中心となる市町村は対応できるのか

地域特性に応じた地域包括ケアを実現するには、基礎的自治体であり介護保険の保険者でもある市町村が中心的な役割を担うべき立場にある。都市部の人材や財政に余裕のある自治体であれば、2025年までの十数年で対応できるだろうが、地域包括ケアの構築に関する専門知識を有している職員が少なく、財政に余裕がない多くの市町村にとっては、至難の業である。特に平成の大合併を受け、多くの市町村は大幅な人員削減を行っており、現状でも人材面で厳しい状況にある。

 

◆歯科の位置づけが不明確

厚労省は、「医療計画作成指針」の中の「在宅医療の体制構築に係る指針」の項で、「要介護高齢者の約九割が歯科治療や専門的口腔ケアが必要」とされているものの、実際の受療者は約3割との報告に触れ、「口腔機能の低下や誤嚥性肺炎の予防等のためには、在宅療養者の歯科受療率の向上が課題」と指摘している。しかし、地域包括ケアの中で歯科がどのように関わっていくのかは明記されておらず、歯科の立ち位置は確立されていない。
そこで次回は、歯科と医療・介護の連携について、詳しくみていく。

★地域包括ケア②グラフ エクセル

地域包括ケアシステムと歯科①/「地域包括ケアシステムとは…」

地域包括ケアシステムと歯科①/「地域包括ケアシステムとは…」

     ― 最近の研究報告から読み解く歯科の今後の方向性と役割を見つめる

昨年十月に行われた社会保険指導者講習会でも、宇都宮啓・保険局医療課長は、「平成24四年度の医療・介護報酬同時改定は地域包括ケアシステム(以下、「地域包括ケア」)構築の第一歩であり、今後の診療報酬・介護報酬改定や制度改正は、常に地域包括ケアの構築を目指すものになる」と述べており、今後歯科医療を行う上で「地域包括ケア」を理解する必要がある。
そこで、「地域包括ケア」の概要や問題点、歯科との関わりなどについて、今月から3回にわたり解説する

「地域包括ケア」とは、「ニーズに応じた住宅が提供されることを基本とした上で、生活上の安全・安心・健康を確保するために、医療や介護、予防のみならず、福祉サービスを含めたさまざまな生活支援サービスが日常生活の場(日常生活圏域)で適切に提供できるような地域での体制」と、地域包括ケア研究会の報告書(※)において定義されている。

◆日常生活圏域について
日常活圏域とは、「概ね30分以内に駆けつけられる圏域」を理想とし、具体的には中学校区を基本としている。
主要な五要素の住宅、生活支援、医療、予防、介護は、並列関係ではなく、介護・医療・予防という専門的なサービスの前提として住宅と生活支援の整備があるとしている。
例えていえば、住宅は地域での生活の基盤をなす植木鉢で、生活支援は植木鉢に満たされる養分を含んだ土。生活(生活支援)という土がないところに、専門職の提供する介護や医療・予防を植えても、それらは十分な力を発揮することなく枯れてしまうということである。

◆2025年の超高齢社会問題に備え
2011年の介護保険法改正で、「国及び地方公共団体が地域包括ケアシステムの構築に努めるべき」と、第5条第3項に規定され、 「団塊」の世代が後期高齢者(75歳以上)となる2025(平成37)年以降の超高齢社会においては、①高齢者ケアのニーズの増大、②単独世帯の増大、③認知症を有する者の増加―が想定される。
加齢や疾病等により要介護状態となっても尊厳を保持し、住み慣れた地域で、その有する能力に応じて可能な限り自立した日常生活を営めるよう、それまでに地域包括ケアの構築を目指すということが、閣議決定された社会保障・税一体改革大綱(2012年2月)や社会保障制度改革国民会議報告書(2013年8月)に明記されている。

◆次回のポイントは…
以上、「地域包括ケアシステム」の概要とその背景について大雑把に述べたが、次回は、それに伴う見過ごすことのできない問題点、すなわち、歯科との関連、医療・介護の給付と負担、医療と介護の連携、自助・互助・共助・公助、大都市と地方圏などについてみていきたい。
※地域包括ケア研究会の報 告書はこれまでに以下の三点が公表されている。ご興味のある方は、ぜひご参照されたい。
①今後の検討のための論点整理(平成20年度老人保健健康増進等事業)
②平成21年度 老人保健健康増進等事業による研究報告書
③持続可能な介護保険制度及び地域包括ケアシステムのあり方に関する調査研究事業報告書 地域包括ケアシステム構築における今後の検討のための論点(平成24年度老人保健健康増進等事業)

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シリーズ「お金の心配をせず歯科治療が受けられるように~“国民会議”にもの申す」③

シリーズ

「お金の心配をせず歯科治療が受けられるように~“国民会議”にもの申す」③

 

2013年参議院選挙の結果は「経済優先」「ねじれ解消」を掲げた自民党の圧倒的勝利に終わった。自民・公明両党は連立し衆参両院で安定多数となる。今後、消費税増税、社会保障制度改革、TPP交渉参加、原発再稼働、憲法「改正」など選挙戦では明確な争点にはならなかった諸課題が大きな焦点として浮かび上がってくる。こうしたなか、日本は7月23日からのTPP交渉会合に正式参加。先行11ヶ国では、既に協定内容の大筋で合意しており、日本が「聖域」を守れるかどうかは極めて微妙だ。

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社会保障制度改革では、社会保障制度改革国民会議(以下、「国民会議」という)が8月21日までに報告書をまとめることになっている。

7月12日の第17回「国民会議」では、最終報告書全体のイメージなどの資料が示されたが、踏み込んだ記述は見られないものの、「長期的なビジョンを持って、給付を抑制していく」「限られた議論のなかで、どこを重視し、どこを抑制するか」「負担の引上げ、給付の削減を議論すべき」「ブランド薬の患者負担の見直し」などと、国民負担の引き上げと給付抑制が議論されていることが記されている。報道によれば、「70~74歳の医療費窓口負担の1割から2割への引き上げや、国民健康保険(国保)の運営主体の市町村から都道府県への移管が盛り込まれる見通し」(「読売」7月13日)という。

国民の所得が増えない中で、消費税が増税されれば、それだけでも医療を受けられない患者が増えるであろうことは容易に想像できる。まして年金暮らしの高齢者の場合、さらに年金が減り、窓口負担が2割に引き上げられれば一層深刻となる。日本歯科医師会の大久保会長が「義歯などは単価が高い。従って高齢者は1割負担を望んでいる」として2割負担に反対を表明したのは当然である。

1割負担を望んでいるのは高齢者ばかりではないであろう。経済的な理由で受診を中断する患者がいることは各種アンケートでも明らかである。「窓口負担の大幅軽減を」の世論を大きく、大きくしていかなければならないのは「今でしょ」。

シリーズ「お金の心配をせず歯科治療が受けられるように」②

シリーズ「お金の心配をせず歯科治療が受けられるように」②

◆かつて健保本人負担はゼロだった

今では、受診時に1割~3割の窓口負担金を支払うのが常識であるかのようになってしまったが、かつて日本でも健保本人の「窓口負担ゼロ」が当たり前の時代があった。1927年1月に健康保険法が全面施行され、84年8月に「健保本人1割負担」が導入されるまで、実に57年間にわたり健保本人は自己負担なしで医療を受けることができた。

 

◆田中内閣で福祉元年老人医療費無料化

また、老人医療費についても、岩手県の沢内村(当時)が1957年から始めた老人医療費無料化制度が大きな成果をあげ、これが全国の自治体で次々と導入されていくという運動の高まりを背景として、73年10月の老人福祉法改正により、七十歳以上の高齢者の窓口負担を無料とする老人医療費無料化が実現した。田中角栄内閣(当時)はこの年を「福祉元年」として大いにアピールしたものだ。

 

◆中曽根内閣が老人・健保本人負担導入

ところが、「戦後政治の総決算」を掲げて1982年に登場した中曽根康弘内閣(当時)は、「たくましい文化と福祉の国」を実現するとして、「政経費の節減と予算の効率化、補助金や人員の削減、公債依存度の引き下げ、電電、専売、国鉄の民営化、医療や年金の改革等の諸改革」(Wikipediaより)について、国民の願いに逆行する政策を実行し、83年に老人医療費の有料化、84年8月に健保本人1割負担を導入。医療と福祉切り捨てに大きく舵を切っていった。2007年の第1次安倍政権が掲げた「戦後レジームからの脱却」の原点は、ここにあるといえよう。

 

◆健保本人3割負担への経緯

その後、1997年6月に健保本人2割負担、2002年10月に老人定率1割、2割負担、03年4月に3~69歳まで3割負担となり、現在に至っている。

 

◆進む受診抑制/昨年調査でも明白

その結果、患者・国民の受診抑制が進み、症状が重篤化してから受診する傾向が強まっていることが、2012年9月に行った保団連の会員アンケートでも明らかになっている。この中で、この半年間に患者さんの経済的理由で治療を中断した事例が「あった」との回答が歯科64.0%、医科19.6%も寄せられている。重篤化してから受診するため医療費は増大する一方である。

 

◆窓口負担の軽減を

2012年の自殺者が97年以来、15年ぶりに3万人を切ったとはいえ、生きづらい日本になってしまったことに変わりない。せめて窓口負担を軽減して安心して医療を受けられる制度にしてほしいもの。その正否は私たちの運動にかかっている。

消費税増税で歯科医療はどうなる③ 完

消費税増税で歯科医療はどうなる③ 完

「診療報酬で手当てされている…?~ホントかウソか~」

「社会保障・税一体改革大綱について」の中で、「消費税率の引上げを踏まえ検討すべき事項」として4点があり、医療機関の消費税損税については、「診療報酬等の医療保険制度において手当する」こととされた。これに沿って、中医協の中に「医療機関等における消費税負担に関する分科会」が設置され、昨年6月より開催されている。このうち昨年7月の第2回分科会には、1989年と1997年当時の診療報酬点数と2012年のそれとを比較した興味深い資料が配布された。

◆歯科診療報酬への消費税上乗せ分その後

これを見ると、確かに1989年にも97年にも点数が上乗せされているが、それは十数項目であり、しかもその後の改定で措置されたかはまったく分からなくなってしまった。例えば、印象採得(欠損補綴、連合印象)が、89年改定で165点(プラス5点)とされ、12年改定では228点とされたが、このうち消費税分が何点かは、今となっては分らない。89年のときのプラス5点が消費税分と考えた場合、20年以上前に手当てした点数で十分だと誰がいえるのか。根管充填(単根管)は、97年に68点(プラス1点)となったが、12年改定でも68点のままであり、その他の項目も据え置き、あるいはわずかな引き上げに留まっている。そればかりか、項目自体が削除されたものさえある。

もとより、消費税分を売上に上乗せして消費者に転嫁するかは各事業者に任せられている(転嫁するしないにかかわらず課税対象の財・サービスには消費税が含まれているが)。鉄道運賃の場合、消費税導入時に10㎞までの運賃には上乗せされなかった。診療報酬についていえば、その全項目にわたって上乗せする必要はなく、仕入に係る消費税分を補填しうる点数を算定頻度の高い項目に少し多めに上乗せすれば足りる。しかし、上記の通り消費税分が上乗せされた項目はわずかであり、しかも改定の度ごとに消費税分が上乗せされたわけではなく、消費税導入時からも前回の増税時からも相当の年月が経過していることを考えれば、決して十分とはいえない。むしろ損の部分の方が遙かに大きいことは明らかである。

◆診療報酬引き上げの根拠と消費税

そもそも、診療報酬点数に消費税分を上乗せするというのは、「社会保険診療は非課税」の政策目的に反している。しかも、それによって医療機関の損税は解消できなかった。

診療報酬点数に上乗せするというのは不確実なものであり、医療機関にとって何ら期待できるものでないことを最後に強調しておきたい。

消費税増税で歯科医療はどうなる②(全3回)

消費税増税で歯科医療はどうなる②(全3回)

「歯科医院経営への影響と対策」 

◆経営への影響

前回みたように、来院患者数が減少するので、ある程度の収入減は避けられない。特に保険収入の減少が大きい。

一般に、保険医療機関の収入の大部分は保険収入であり、そのうち比較的点数の高い補綴治療の患者が減るため、患者数の減少がそのまま収入減となってしまう。

一方、医療の質にこだわる患者を中心に自費治療の需要はある程度見込めること、そもそも自費収入の比重はそう高くないこと等を考えると、自費収入が減ったとしてもその影響は比較的小さいと思われる。

経費面では、給料賃金・減価償却費は消費税がかからないので増税の影響はないが、歯科材料費・外注技工料・リース料・地代家賃などの経費増が経営を圧迫する。

2006年分確定申告決算書の会員アンケートをもとに個人立歯科診療所の消費税の影響を試算したところ、医業収入3700万円(うち自費収入880万円)、所得金額850万円の場合、消費税率が現行の5%でも51万円もの負担増(損税)になることが分かった(※)。消費税が10%になれば、102万円になる(政府・厚労省が診療報酬点数に消費税分を上乗せしたとしている点については、次回触れる)。

※自費診療で診療代に消費税を転嫁できていない歯科医院も少なくないことから、ここでは50%転嫁したものと仮定し計算した。

◆歯科医療機関4つの経営対策

現在の経済状況で消費税増税を実施すべきでないことは明らかだ。協会は増税中止を求めている。そのことを前提に、ここでは歯科医療機関の対策を考える。ポイントは以下の4点。

第1に、人口減少に伴い中長期的には患者減が予想される。したがって、一人ひとりの患者を長期にわたり定期的に来院するよう啓蒙・教育し、1人でも多くの患者を自院のファンにすることである。そのためのキーワードは、「褒める」「声をかける」「説明する」の3つ。

第2に、疾病構造の変化に対応し、歯周病治療を強化することである。歯周病の怖さを理解していない患者も多いので、歯周病の正しい知識を広げていくことが重要だ。その面で診療現場の努力が必要である。

第3に、高齢患者の増加が明らかなのでその対応を強化すること。これは単に訪問歯科診療の強化を意味しない。高齢者の楽しみは「食」にある。口腔機能の保持により全身の健康とQOLの向上に積極的に関わっていくことがこれからは重要である。

第四に、今こそスタッフを育て、「戦力」にすることである。経営が厳しいからと安易に合理化を考えることは、じり貧を招く。スタッフが安心して誇りをもって仕事ができるよう先生が努力するなら、院内は明るくなり患者は安心して治療が受けられる。

消費税増税で歯科医療はどうなる①(全3回)

消費税増税で歯科医療はどうなる①(全3回)

「年収の低い世帯ほど負担増で影響大に/年間10.67万円~16.7万円もの負担増」

 ◆消費税増税による国民生活への影響

昨年8月に成立した「社会保障・税一体改革関連法」によって消費税が2014年4月から8%、15年10月から10%に引き上げられるほか、復興増税や厚生年金保険料等も上がり重い負担が国民生活にのしかかる。国民の負担増は消費税増税だけで13.5兆円、ほかに年金給付額、子ども手当などの縮減、健康保険料の引き上げなど6兆円以上、合わせて20兆円以上の大幅負担増となる。これは1997年の消費税増税(3%から5%)と医療費の窓口負担引き上げ(健保本人一割から二割)による9兆円の負担増を大幅に上回り、国民生活への影響が深刻になると予想されている。

こうした大規模な国民負担増は所得弾性値が高いといわれる歯科医療に大きく影響する。大和総研・是枝俊吾氏は、世帯の消費支出が1%減少した場合、歯科診療代は1.34%~1.43%減少し、家計の消費支出の減少分以上に歯科診療代が削られると予測している(協会が行った学習会で)。ただ、97年当時と違って、今日の深刻なデフレ経済のもとで大増税が実施されればもっと受診抑制が進むのではないかと危惧される。

その根拠は、負担増計画の暮らしへの影響の大きさにある。是枝氏は5つのモデル世帯を想定した影響試算を行っているが、40歳以上、専業主婦、小学生の子ども2人の4人世帯における2011年と2016年の実質可処分所得をみると、年収300万円の世帯では24.96万円、年収500万円の世帯では32.89万円の減少となる。比率で見ると300万円の世帯で8.87%減となり、年収が低い世帯ほど増税・負担増の影響が大きいことが明らかになった。所得減少の最大の要因は消費税増税であり、300万円世帯では10.67万円、500万円世帯では16.7万円の減少となる。また、住民税の年少扶養控除の廃止、厚生年金の保険料増加、子ども手当(児童手当)の減少と所得制限(高所得世帯への)等による影響も大きい。

シリーズ「お金の心配をせず歯科治療が受けられるように」①

シリーズ

「お金の心配をせず歯科治療が受けられるように」①

高まる歯科医療の役割

 

9月から「いつでも、どこでも、だれでもお金の心配をせず『保険でよい歯科医療の実現を求める』患者署名」に取り組む。そこで、本シリーズではその意義を考える。

 ●医科歯科1万会員「がんばろう!」コールCIMG5339

◆高い喫煙率は平均寿命を下げる

世界保健機関(WHO)が5月15日、2013年版の「世界保健統計」を発表したと共同通信が伝えました。11年の男女合わせた日本の平均寿命は八十三歳で、イタリア中部にある内陸国サンマリノ、スイスとともに首位となり、WHO当局者によると、日本は20年以上連続で首位を維持しているそうです。しかし、喫煙率が高いことから、日本に追いつく国は今後も増えるとし、引き続き長寿世界一の座を保てるかは危うい状況ともいいます。

◆喫煙は歯周病の危険因子でもある

喫煙は、「肺がんだけでなく、口腔、咽頭、喉頭、食道、胃、大腸、膵臓、肝臓、腎臓、尿路、膀胱、子宮頚部、鼻腔、副鼻腔、卵巣のがん及び、骨髄性白血病に対して発がん性があることが“確実”と評価」され、禁煙した人は「吸い続けた人と比べて、口腔、喉頭、食道、胃、肺、膵臓、子宮頚部のがんのリスクが低いことが“確実”と評価されています」(国立がん研究センター「研究班によるパンフレット2013年版」より)。喫煙はまた、糖尿病など全身疾患や歯周病の大きなリスクファクターであることが明らかになっています。

◆医科歯科連携に国もやっと乗り出す

一方、日経電子版は5月14日付で、「厚労省は、病院での通常治療に歯周病などの歯科治療を組み合わせてがんや糖尿病の治療効果を高める『医科歯科連携』の普及に乗り出す。連携に取り組む地方自治体向けの助成制度をつくり、今年度から全国十数カ所でモデル事業を開始。数年で約百カ所へ広げる。薬の使用量や入院日数を減らし、医療費の抑制につなげる」と報じました。「具体的には糖尿病の患者やがん治療で入院する患者に対し、歯科医師が口内を診察して歯周病などを治療する」というもので、歯科が設けられていない病院でも外部の歯科診療所と連携して入院患者が歯科治療を受けられるよう助成制度をテコに医科歯科連携の取り組みを推進する意向のようです。

厚労省もようやく、歯科医療の重要な役割に気づきはじめたと言えますが、この足取りをより確実にしていくためには、私たち歯科医師の一致した運動が重要です。

文科省が私学助成金交付に関し定員割れにも査定

6月23日(土)の毎日新聞朝刊1面「私学健全化へ罰則強化」の内容が波紋を呼んでいる。罰則強化を進める対象は私学となっているため、関係者の間からは、「当然ながら、私立歯科大学も対象に入るため、検討対象になる歯科大が出てくるのではないか」との観測が流れている。

毎日新聞の記事によると、①営法人の財務内容を公開していない学校に対しては、助成金削減幅を、これまでの1%から5%に拡大する、②学生数や就職状況の情報を公開していない場合は3%~5%削減幅を引き下げる、③経営上の問題から助成金を交付されなかった法人が再度、助成金満額受給を受けるため、従来5年間だった経過期間を7年とする、④定員をオーバーして入学させている大学への助成金も削減幅を大幅に拡大する―などが計画されているという。さらに、金融投資で損失を出したり、学生数が定員を大幅に割り込んだりしている大学を調査中で、法令違反があれば、学校教育法に基づく解散命令を視野に入れている。

去る6月16日開催の当協会第40回定期総会のシンポジウムの中でシンポジストの一人を務めた川渕孝一・東医歯大大学院教授は、「現在、歯科が抱えている問題の多くの基本的課題は、歯科医師需給問題に帰結するのではないか。この点について結論が出せずにいるのが大きなネックだと個人的は思う」と指摘している。

チーム医療推進会議が「歯科衛生士法の改正」を了承

厚生労働省の第13回チーム医療推進会議が8月22日に開催され、「看護師の能力を認証する仕組みの在り方」「歯科衛生士の改正」を協議・検討した。

「歯科衛生士の改正」の内容は、今月8日の同会議ワーキンググループでの議論内容がそのまま了承された形となり、同会議の親組織である社会保障審議会に報告することが決まった。「歯科衛生士の改正」については、医政局歯科保健課歯科口腔保健推進室の小椋正之室長が今日まで経緯を説明。さらに歯科衛生士法の見直しの考え方を示した。

 

①   歯科衛生士の修業年限の延長:昭和23年の法制定当時、歯科衛生士は1年制であった、が、歯科衛生士学校養成所指定規則の改正により、昭和58年から2年制、平成16年から3年制へと変更。経過措置期間が終了し、平成24年度からすべての卒業生が3年制課程の履修者となった。

②   歯科診療の補助との関係:歯科衛生士の業務範囲は、法制定当初は「歯科予防処置」のみであったが、昭和30年に「歯科診療の補助」、平成元年には「歯科保健指導」がそれぞれ追加。また、「歯科予防処置」を行うに当たって「直接の指導」が必要とされている一方、比較的侵襲度が高い「歯科診療の補助」を行うに当たっては「主治の歯科医師の指示」が必要とされている。